トップページ  地域医療  豊富な実績と長い歴史がある血液浄化センターだからこそ、一人ひとりに寄り添った「こころの医療」が提供できる

西奈良中央病院は、県内有数の「血液浄化センター」があります。慢性腎不全など生涯を共に付き合うことになる疾患だからこそ、人生のキャリアやワークライフバランスを意識して付き合う病院を選択する患者さんも増えています。今回は西奈良中央病院ならではの強みや、実際にどのようなケアが行われているのか、患者さんとのかかわりの中でどのようなことを大切にされているのかといったことを多職種の視点でお伺いしました。

最新の治療法と、オーバーナイト透析の実施
様々な患者さんに対応できるノウハウの蓄積

―西奈良中央病院さんの血液浄化センターの強みや特徴について、お教えください。

原先生(以下原):血液浄化センターの強みとしては、ひとつめは透析治療の黎明期から透析治療をやっているということですね。長く透析治療をこの地で行ってきた実績がありますし、それだけの経験豊富なスタッフがたくさんいるということは強みであると思います。

―実績があるということは経験豊富なスタッフさんがいて、それだけ信頼されていることだとも思うのですが、それ以外にどのようなメリットがあるのでしょうか?

南内さん(以下南内):10年、20年、30年とずっと同じところに週3回通うことになるので、お互い仲良くなることが多々あります。定期的に通わないといけない透析治療だからこそ、長く関係性が続くことで、相手からの信頼が伝わったり、変化を感じ取れるところがいいですよね。自分たちもそうですが、患者さんとの交流の中で刺激を受けることも多いです。

原:経験により、幅広い選択肢を視野に入れることができるかどうかで違いがでてくると思います。医師、看護師、臨床工学技士といったメンバーだけでなく、ソーシャルワーカーや透析クラークのようなスタッフもいるからこそ、選択肢のある医療が提供できることは、アピールできるポイントだと思います。

―ほかにはどのようなポイントが強みでしょうか?

原:コンソールが80台あり、非常に大所帯であることも当センターの特徴です。

伊藤さん(以下伊藤):センターの透析室は、壁がなくて80床がワンフロアに並んでいるようなお部屋になるので、開放感がある広いお部屋です。長時間いる場所でもあるので、苦痛を感じないように窓には和風のあしらいをするなどの工夫もしています。

原:最近、透析監視装置80台を刷新し、「オンラインHDF」を開始しました。これにより、多彩な透析ニーズに対応可能です。その他にも、9人の方がオーバーナイト透析を受けており、日中は仕事を行い、夜間に負担の少ない長時間透析を行っています。臨時透析にも積極的に対応し、昨年は遠方から桜を見に来られる患者さんもおり、一目千本の景観に大変喜ばれました。

古川さん(以下古川):オーバーナイトで透析を実施しているのは奈良県では当院だけです。特に若年の方は、将来を考えてキャリアも積みたいし、ただ身体のために透析もちゃんとしたいと思いが出てくるのは自然なことです。そう考えると、普段、家で寝ている時間に透析が行える「オーバーナイト透析」は需要も高いです。

多職種の連携で、患者さんへの負担が少ないケアを提供
長く治療する透析だからこその工夫とは

―透析治療における、多職種の連携というものはどのようなものがあるのでしょうか?

南内:ドクターは診察、看護師はケアなどイメージしやすいかもしれないですが、臨床工学技士はなかなかイメージしづらいですよね。臨床工学技士の仕事は、透析室でいうと体外に血液を取り出して人工的に濾過する機械(透析装置)があるので、そのような医療機器の保守点検や操作がメインになります。ほかの医療機器でも生命維持管理装置の透析の機械、人工呼吸器の機械など病院にある医療機器の操作に加えて、保守・点検をおこなっています。

古川:透析治療にはさまざまな条件や組み合わせがあります。治療方針、治療時間、使用する器械や器具などの大まかな方向性を医師から指示をもらい、臨床工学技士は細かな計算や設定を行い、詳細な治療方針を決定できます。医師と技士の連携は細かく指示を受けなくても大体の方針を伝えていただいたら、同じビジョンが描ける部分なのかなと思います。そのため、細かい調整などはかなり詳細に具体的に技士側に任せていただける信頼感ある関係性ですね。

伊藤:連携の視点から見ると、看護師は医師や臨床工学技士と患者さんを結ぶ架け橋のような役割です。血液検査結果を元に、透析の効果に問題があると判断した場合、医師や技士と協力して治療方針の再評価を行い、患者さんにとってより良い透析になるように持っていく役割が大切だと思っています。患者さんの想いをくみ上げて、それを透析の質向上に結びつけるために臨床工学技士や先生に相談することが多いです。

患者さんの気持ちを受け止めることは看護師の重要な仕事だと感じているので、日常生活の過ごし方や、何気ない相談に乗ることから一つずつ見えてくる問題があります。薬の変更や条件の調整が必要な場合、相談して連携を取って、患者さんに適切に返していけるよう動いています。

南内:おそらく想像しているより多くの医療従事者がかかわっているので、びっくりされるかもしれませんが、患者さんのセンター外の生活まで見据えてフォローアップすることが目的です。それによって患者さんは安心して治療を受けることができるし、負担がどの部分にかかっているのか、どうしたら軽くすることができるのか、ということを各職種が患者さんファーストで考えられるということが医療連携の本質だと思います。原先生はどちらかというと、それぞれのスタッフを取りまとめるリーダーのような存在です。

患者さんの人生の幅を狭めない
「こころの医療」の実現を目指して

―皆さんにとって「良い透析」というのはどういうものなのでしょうか。

古川:「患者さんが納得する透析」と、一言でいうのは難しい。透析治療時には身体の不快感や痛みが生じることがあり、それらを全て取り除く事はできないかもしれないですが、ある程度の納得をしてもらうことは大事です。具体的な理由や問題点を共有しながら、「これまでの経過からこういった症状が生じた可能性があります。今後はこのようなアプローチを試してみましょう」といった提案を患者さんと共有することで、不安や疑問に応えることができます。これにより、「これ以上治療を受けたくない」という気持ちを軽減し、「透析を続けていこう」といった気持ちをもってもらうのも、一つの目標になると思っています。

原:実際には、「良い透析」というのは大変難しい命題だと思います。透析は、患者さんの時間を奪っているともいえます。透析をしながらでも、患者さんが楽しく生きることができる環境になればいいなと考えています。厳しく管理するだけではなく、基本的な治療は行いつつ、あとは患者さんのQOL(Quality of Life)を高めることを意識していきたいと思っています。

南内:やはり患者さんは透析だけが生きる目的ではないため、旅行や仕事など制限がありますが、いろいろなことができることも大事だと思っています。患者さん自分自身で楽しい生活を送りながら、透析と付き合い生きることが一番だなと思いますね。

伊藤:私の個人的な思いではありますが、楽しみにするものがある生活ができるというのが「良い透析」なのかなと思っています。なんのために生きているのかということは、普段考えることがないかもしれませんが、治療を行うということはその治療をしなければ亡くなってしまうということでもあります。なので、その人がその人らしい生きがいっていうのを感じながら透析ができるのが理想なのかなと思います。「こう生きたい」という患者さんの想いをくみ取りながら関わっていっているところはセンターで勤務するスタッフ皆が持っている気持ちだと思います。

原:透析は治療であって、その人の人生そのものではないので、あまりに厳格な要求をして透析管理を行うことがすべてではないと思います。当センターでは、これから腎臓リハビリテーションに積極的に取り組んでいく予定です。これは理学療法士さんとの協力が必要です。これまで腎不全患者さんが過度な運動をするのはよくないと見られてもいたのですが、どうやらそうじゃないことが分かってきました。透析で寝ているだけで体力が低下するといわれてきていますので、患者さんの体力の維持や、気持ちの発散など良い方向に作用すればいいなと思います。何より、法人理念にある「こころの医療」を実践していければと思います。身体の治療を通して、その疾患で負ってしまった精神的なショックや心の傷も軽くすること。それが患者さんの生きる意味や人生の質を左右することになりますから、私たちが行うのは「こころの医療」であるべきだと思いますね。

血液浄化センター長

原 貴彦

(プロフィール)

1994年山口大学医学部卒。1994年、山口大学泌尿器科に入局。2001年-2004年、米国国立衛生研究所、がん研究所(NCI, NIH)に研究員として留学。2007-2014年、山口大学医学部附属病院 泌尿器科で勤務(最終職歴: 講師)。その後、益田赤十字病院(島根県)泌尿器科部長を勤め、2020年9月、西奈良中央病院 血液浄化センター長に就任。

(資格・認定など)

日本泌尿器科学会 専門医・指導医