トップページ  地域医療  その人らしく、穏やかに過ごすために - 緩和ケア病棟の役割

病院で緩和ケアを受けるという選択肢

― 緩和ケア病棟について教えてください。

がんをはじめとする重い病を抱えたとき、痛みや息苦しさ、不安といったさまざまな苦しみに対して、専門的なケアを受けられる場所。それが緩和ケア病棟です。医師や看護師が24時間体制でサポートし、症状の変化にもすぐに対応できる医療体制が整っています。さらに医療だけでなく、患者とご家族の心に寄り添うケアも重視しています。緩和ケアは、単に終末期の医療ではなく、「その人らしさを大切にする時間」を支えるもの。だからこそ、当院ではご家族の面会や付き添いにも柔軟に対応し、大切な時間を穏やかに過ごしていただけるよう努めています。

― 自宅ではなく病院で緩和ケアを受けるメリットはなんですか。

最近は、訪問診療でも使える薬は増えてきましたが、症状のコントロールが難しく、身体のつらさが強くなって入院される方も多くおられます。そうした時に、当院の緩和ケア病棟では、24時間体制で医師や看護師が常駐し、点滴や投薬、水がたまってしまった時の処置など、自宅では難しい医療的対応が可能です。

また医療面だけでなく、介護についても病院側がしっかりサポートします。高齢のご夫婦や核家族が増える中で、ご家族はご自身の生活を守りながら、無理なく面会や付き添いをしていただけます。特に医療的な処置を必要とする方にとっては、安心して過ごしていただける環境が整っている。それが、病院で緩和ケアを受ける大きな意味のひとつです。

緩和ケアの意義と多職種連携

― 緩和ケア病棟の看護師として、大切にしていることを教えてください。

一番は患者の思いを大事にするということです。患者の「家に帰りたい」という思いを叶えることもそうですし、その家族との関係を保つことにも大きな意味があります。患者にとって、入院生活は慣れないことばかりで不安が募ります。そうした中で、安心できる家に帰りたいという気持ちと、もし家で症状が悪化したらどうしようという家族の不安、その両方に答える必要があります。「もしもあの時こうしていたら…」という後悔を絶対に残さないために、どうすれば両者の気持ちに寄り添えるのかを一緒に考えていきます。

― 多職種連携を大切にしていると伺いました。

当院では、医師・看護師に加えて、薬剤師・栄養士・臨床心理士といった専門職が連携し、多角的な視点から患者とご家族を支えています。痛みの緩和だけでなく、お薬の調整や食事の工夫、気持ちのケアまで、チームで寄り添う体制が整っています。

また1日2回多職種カンファレンスが行われており、入院患者の様子や症状、外出外泊の問題点などを多職種で共有します。臨床心理士は、患者とそのご家族のケアは勿論、患者との別れといった心理的ストレスのかかるスタッフのケアまで行っています。

患者を第一に考えて

― 病棟内でイベントを行っていると伺いました。

当病棟では、クリスマス会やコンサート、毎週のピアノ演奏会など、少しでも患者やご家族の心の安らぎになればと思いイベントを企画しています。院内にはピアノやバイオリンを弾ける職員がおり、「患者さんのために一緒にやりたいです」と言ってくれる職員が緩和ケア病棟スタッフと協力し、合同の演奏会などを行っています。また、外出外泊が可能な患者は、自宅でのイベントやお祝いを計画することもできます。

― 今までどのような患者がいらっしゃいましたか。

お誕生日で外出してお食事を食べに行かれる方や、ウエディングドレス姿のお孫さんと前撮りをする方、またお孫さんがバイオリンを弾きに来られるという方もいました。デッキテラスには桜の木が咲いているので、お花見に来る方も多くいます。テラスでご家族と一緒に写真を撮った時は病棟看護師が写真を印刷し、病室に飾らせていただいています。

「やっぱり家で過ごしたい」を叶えるために

― それでも家で過ごしたい方へはどのような対応を行っていますか。

「自宅で最期まで過ごしたい」という願いは、とても自然なものです。緩和ケアに入院してからも、患者が「やっぱり家に帰りたい」と願われた時には、退院後の在宅療養へスムーズに移行できる体制が整えられています。

地域連携室には、ソーシャルワーカーや看護師が常駐しています。ご家族のお気持ちも伺いつつ、患者の「家に帰りたい』という気持ちをどう叶えるか。その思いを聞き取りながら、訪問診療・訪問看護、必要であればヘルパーの導入も含めて調整していきます。例えば、おむつ交換やインスリン注射など、ご家族が初めて取り組むケアについては、退院前に病棟で技術指導を行うなどの支援もしています。緩和ケアでは「時間」が非常に重要です。残された時間の中で「帰りたい」と思ったときに、できるだけ早く対応する。だからこそ、スピード感を持った多職種連携が、何よりも欠かせないのです。

残されたご家族のケア「遺族会」について

― 「遺族会」ではどのような活動を行っているのですか。

3か月に一度、思いを語り合う場「遺族会」を行っています。臨床心理師とスタッフが同席し、家族のこと、自分の気持ち、日常で感じる喪失感などを自由に話せる空間を大切にしています。会を通して、「別れ」は亡くなる瞬間で終わらず、その後も長く続くこと、入院中の関わり方が、残された家族の心に深く影響することも改めて実感しました。少しでも遺族の悲しみに寄り添える看護をしたい。そう思えるきっかけになりました。