西奈良中央病院では、人工関節センターを設立し6年を迎えました。高齢化が進む社会の中で、治療を検討することが多い「人工関節」や「再生医療」。言葉の響きからは計り知れない人工関節・再生医療の治療や、人工関節センターについて、さらには松本祐希先生自身のこともお話をお伺いしました。
総合的なアプローチを実現する人工関節センター
― 西奈良総合病院の人工関節センターの特徴を教えてください。
着任してから2年が経ちましたが、年々需要が増加していることを強く感じています。コロナ禍の影響もあり、一概には言えませんが、単純な実績数では、2021年には股関節の手術が23件、膝関節の手術が27件行われました。2022年には股関節の手術が28件、膝関節の手術が26件となりました。私が基本的に担当する手術は足回りが多いですが、当院には足関節の専門家である高倉先生や手外科センターなどがあり、全身の不調に対して総合的なアプローチが可能な体制を整えています。
患者さんは、やはり60歳から80歳代のご高齢の方が多いように感じます。ご年齢による制約もあり、骨粗鬆症などを併せ持つ患者さんもいらっしゃいますが、個々の患者さんに柔軟に対応しています。
ナビゲーション技術で安心の人工関節手術と術後の疼痛管理、
早期リハビリテーションの重要性
センター長に就任した際に、このあたりでは珍しいCT-based ナビゲーションを導入しました。これは実際に人工関節の手術を行う際に、綿密な術前計画を行うために必要なものです。患者さんの身体についてCTやMRIなどの検査結果から3次元画像情報を取得して、事前に手術のシミュレーションを行うことができます。さらに、手術中に器具の位置や角度などの設置状態を正確に把握することができるので、術前の計画を照らし合わせながら、リアルタイムで手術の状況を反映することが可能で安全性の高い手術が可能になっています。
疼痛管理に関しては、麻酔科と連携してブロック麻酔を使用しています。これは神経に直接麻酔をかけ、超音波を使って注射する方法ですが、基本的にどの患者さんに対しても実施しています。この処置により、手術中に使用する局所麻酔薬の量を減らすことができ、また手術後の痛みも軽減することができます。さらに、積極的に鎮静剤を投与して早期リハビリテーションを促進するようにしています。これが通常の生活へスムーズに復帰する一歩となります。
― 定期的な検診を大切にされていると伺いました。
人工関節は生涯にわたり付き合うことになるため、手術後の最初の1年間は短いスパンで通院いただくようにしています。その後は半年ごとや1年ごとの定期的な診察を行っています。術後もそれぞれの患者さんの生活の質を維持しながら、より良い生活を送るためにと、常に考えています。必然的に私とも長いお付き合いをしていただくことになりますね。(笑)
患者さんによっては病院連携が必要な場合があると考えています。例えば、人工関節には「再置換」という、初めに装着した人工関節を交換する場合があり、術前計画段階で手術が複雑になる可能性があると判断したら、大学の先生に写真などを送り助言を求めることもあります。また、症例によっては大学病院や地域の先生と連携して対応することも考えています。
「手術」という選択肢が難しい方にも、患者さんの選択を広げる「再生医療」
― 人工関節以外の新しい取り組みをされていると伺いました。
2023年3月末から、当院では厚生労働省の認定を受けた再生医療を行うことが可能になりました。この治療は自費治療となりますが、「手術ができない患者さんに対して治療ができる」という側面では、今後広く取り組んでいけることを目指しています。当院で提供できるのは「PRP療法/APS療法」であり、保存加療と手術による治療の中間的な方法となります。入院や手術の必要はなく、治療は予約日当日に行われることもメリットの一つです。患者さんの血液からPRP(血小板)やASP(自己たんぱく質溶液)を作製または抽出し、人間本来の治癒力や組織修復能力を活用する治療法です。症状の進行を遅らせることにより、手術を考えるほどではないが痛みに悩まされている方や、ヒアルロン酸注射の効果がない患者さんには、痛みの緩和の可能性があります。また、県内でもごくわずかな認定医療機関でのみ提供される治療です。
人工関節によって生活の質が向上し、多くの方に人生を楽しんでもらいたい
― 直近の目標や将来の展望をお教えください。
人工関節センターとして再生医療も提供していますが、まずは年間100件という実績を達成することを目標にしています。人工関節によって、生活の質が向上し、人生を楽しんでいる方々とも今でも定期的にお会いしています。そういった方々を一人でも多く増やし、支えたいと思っています。実績数は地域の医師や開業医の先生方との信頼関係や基盤形成にも重要な影響を与える指標と考えていますので、その点に力を入れて取り組んでいきたいと思っています。また、高齢化が進む社会において、今後も需要が増えてくる医療分野であると考えていますので、センターの規模拡大を目指しています。
近鉄奈良線 「学園前」駅に位置する当院のエリアも、年月を経て街の構成や役割が変化していると感じています。もともとは「地域のために」という思いで設立した医療法人ですが、交通の便が良いことから、大阪圏や奈良市内のベッドタウン的な位置づけになっています。このことを考慮すると、病院周辺の地域住民だけでなく、奈良市内の方々にも「何でも相談できる」「奈良の人工関節といえば、西奈良」といったイメージを持っていただけるような病院になりたいと思っています。
整形外科・人工関節センター長
松本 祐希
(プロフィール)
2010年近畿大学医学部卒。2012年奈良県立医科大学整形外科に入局し、数年勤務。その後、他院での勤務を経て、外傷・人工関節についての知識・手技を習得。執刀助手として多数の症例を経験し、2021年西奈良中央病院人工関節センター長に就任。膝・股関節の人工関節手術を担当。
(資格と所属学会)
- 日本専門医機構 整形外科専門医
- 日本整形外科学会
- 日本骨折治療学会
- 日本人工関節学会
- 日本股関節学会
- 日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会
- 中部日本整形外科災害外科学会