トップページ  取り組み  多文化交流が拓く未来の介護 ― 外国人雇用から見えた新たな介護の可能性

社会医療法人松本快生会「介護老人保健施設 大和田の里」では、2023年度より外国人労働者の受け入れを始めました。受け入れ前のインターン経験や受け入れることによって生まれる「大和田の里」内の刺激、さらには受け入れてからの課題やこれからの展望についてお話を伺いました。

現在日本社会の構造や課題と、 外国人労働者を介護士として受け入れる目的

― 外国人労働者を受け入れようと思ったきっかけや狙いについて教えてください。

現在、日本は少子高齢化の大きな社会変化に加えて、介護業界においては人材不足の深刻化が進んでいます。介護職については2019年より「特定技能」という外国人の在留資格(ビザ)の制度が始まるなど、日本政府としても外国人労働者の受け入れを推進する動きがあります。

大和田の里でも、外国人労働者の受け入れを進めているとお聞きしました。その狙いと想いについて教えてください。

今西さん(以下、今西):介護業界は「万年人材不足」と呼ばれるほど人手が足りません。少子高齢化が進む中で、ご利用者は増えていくけれど、人材は常に不足しているというアンバランスな構造になっています。

ご利用者さんに満足感のある介護サービスを提供していくなかで、人材不足によるサービスの低下や受け入れできない事態は避けたいと常々考えています。介護はマンパワーの部分もあるので、スタッフが多くいること自体があらゆる方向への(ご利用者さんにとっても、スタッフにとっても)強みになると考えています。

そんな中で、同じ奈良県内の医療法人健和会(社会福祉法人大和清寿会)が運営している外国人向けの日本語学校から「日本語学校を卒業した方が介護の道に進みたいと思ったときに、実習(インターンやアルバイト)の場所として連携しませんか」とお声がけをいただきました。話を進めていくと、実習先だけでなく双方の合意があれば、正職員として受け入れることも可能だということでした。

介護分野は「特定技能」にもなっており、国としても外国人労働者の受け入れを推奨しています。現在の人材不足を解消でき、より満足感のあるサービスにつながるかもしれないこと、また、同じスキルを持っている別の国のスタッフが働くということ自体が、大和田の里の日本人スタッフの刺激となり、成長を促すかもしれないとの思いから、法人として受け入れを決めました。

受け入れるにあたり、法人内でも検討を重ね、タイ国の人が一番初めに受け入れる国として適しているのではないかという結論になったようです。親日国家としても有名な国ですし、「微笑みの国」でもありますから。何より、食べ物の好みとか思想の方向などがよく似ていると感じたことが大きかったようです。

はじめは週に1回、2回の頻度で日本語学校(介護学校)がない日にアルバイトとして来てもらい、施設の雰囲気や仕事にも慣れるようにしました。言葉の壁や目には見えない偏見の壁も、働き始めてすぐの頃はあったようですが、彼女たちの持つ勤勉さや真摯さは、目に見えてご利用者さんやスタッフの意識を変えました。現に、一番初めに1年間アルバイトに来てくれた子たちは2023年4月から正職員として良く働いてくれています。施設にもよく馴染んで和気あいあいとしていますね。

外国人労働者の彼女たちが実際に日本に来て感じる、 母国タイとの違いやスキルの生かし方

今回4月から実際に正職員として働いている、4名の外国人スタッフの方に座談会を行ってもらいました。実際に働いてみた感想や母国との文化の違い、これからどうなりたいかについて赤裸々に語ってもらいました。

A:日本に来て苦労したことの一つは方言です。奈良弁に慣れていなくて…聞き返すことも多かったです。私たち4人もタイのそれぞれの地域から出てきて日本語学校での同級生なので、それぞれの地域によって訛りや違う言葉があるのは知っていましたが、日本語だとそれがとっさに出ないこともあるので、苦労しました。驚いたことは、交通機関が時間通りに来ることです。

B:それは私も分かります。バスで大和田の里まで通っていますが、それも時間通りにバスが来るので毎日規則正しい生活になりましたね。私が日本で苦労したことは漢字です。喋ることよりも読むことのほうが難しいと感じます。

C:私は相手からの文章で漢字を読むのは平気ですけど、自分から発信する際にはちょっと考えちゃいますね。漢字そのものや単語そのものもそうですが、文法があっているか不安なので、話すのは平気ですけど書くことはまだまだ訓練がいると思っています。

D:私も専門用語とかの難しい言葉はまだまだ分かりませんが、施設の先輩スタッフが丁寧に教えてくれるので、ちょっとずつ慣れてきている感じです。直接聞くこともありますけどスマホのアプリを使って翻訳してもらうこともあるので、コミュニケーションには困りません。

C:私はタイに子供を残して出稼ぎに来ているのですけど、日本はタイよりも経済も安定しているし安全な場所なのだと思いました。ちょっと困るのはご飯がおいしすぎて、よく食べるようになったことかなと思います。まだまだ働き始めたばかりなので、将来のことをはっきり決めているわけではないですが、将来的にはタイに帰って自分の子供と一緒に住んで、自分の店を構えたいです。

A:私は日本で働くことで家族への仕送りもそうだけど、自分自身への貯金をしたいと思っています。そうしたら、今の経験とか日本語で観光案内とかもできるようになると思うので、タイに戻ってから何か自分でビジネスができればいいなと。

D:私はまだ将来を明確に考えてないです。タイに戻るかどうかは、そのときの世界情勢や首相同士の関係のこともあるので、決めるのはもっと先になりそうです。今はとにかくもっと介護を上手にできるようになりたいと思っています。日々勉強です。

B:私も将来のことはまだ全然考えられてないです。ただ、日々の生活のお金に困らないくらいの生活はしたいですね。いくら払わなきゃとかお金のことを考えなくてもいいように貯金ができたらと思います。

今西:法人内には職員の福利厚生として華道部があり、日本人の職員が華道(草月流)の先生に定期的に指導してもらっています。外国人4名もこの「お花のお稽古」に参加しました。秋には「大和田祭り」を開催し、その際に日本の伝統である「浴衣」を着用して、祭りに参加しました。

彼女たちは母国に帰ったら、管理者(マネージャー)として活躍をしていくことになります。そのジャンルは必ずしも介護ではないかもしれないけど、大和田の里での経験が日本とタイをつなぐ一つのきっかけになったり、接客業など人と接するうえでの学びにつながったりと多岐に影響すると考えています。

― 人種や文化を超えて、心のこもった一生懸命さが、信頼を結ぶ。

今西:外国人労働者を受け入れるに当たっては、受け入れ先として様々な支援体制が求められます。

文化や生活習慣が異なるため、日本の当たり前が彼女達の当たり前ではありません。日本語レベルにも個々に差があり、最初は意思疎通がうまくいかないこともありました。具体的に指示を出し理解してもらえないと、こちらが求める行動には至りません。

同じ職場の職員がそれぞれの外国人を尊重し、1人の人間として平等に接する事が、利用者にも伝わり、今では日本人・外国人という隔たりなく1人の職員として認めてもらえているように感じています。外国人と一緒に働く事で今までの当たり前が覆り、人権や倫理をこれまで以上に考える機会となりました。

彼女達の文化では「家族を大切にする」事が優先です。とにかく親切で優しく利用者に接してくれています。言葉使いや態度は日本人が見習わなければならない所も多くあるように思います。たどたどしい日本語で話しますがその一生懸命さは職員にも、利用者にも伝わり相互信頼に繋がっています。

この度、10月に来日し日本語学校に入学したミャンマー国籍の3名の女性が当施設でアルバイトを開始しました。また、新たな国との繋がりが始まり、文化・価値観・安全・治安という幅広い視野を求められています。職員一人ひとりが平等に自身の能力を十分に発揮できる施設であるよう体制の整備に注力していきたいと考えています。その先には、利用者を自分の家族と思えるような温かい施設になる未来を想像しています。