トップページ  取り組み  身体改善の相乗効果を生み出す、リハビリテーションと栄養管理の連携

介護老人保健施設 大和田の里では、リハビリテーション部門と栄養管理部門が連携を強化し、お互いの効果を最大限に引き出す取り組みを行っています。リハビリと栄養管理の重要なポイントや、職種の垣根を超えた連携など、利用者さんのための介護に対する想いをお伺いしました。

リハビリと栄養管理の相乗効果
最大の効果を引き出すためのスタッフ間の連携

― リハビリ部門と栄養部門の連携を大切にされていると伺いました。

主任 理学療法士 平子さん(以下、平子): はい、その通りです。当施設におけるリハビリと栄養の関連について、特に言語聴覚士は「食べる・飲み込む機能」である摂食嚥下に関する専門知識を持っていますので、管理栄養士である木島さんとの連携が重要です。ただ、それだけではなく、機能の回復や、再びその人らしい姿に戻すことにおいて、目標を持って行われる活動全体にリハビリと栄養の相乗効果を重視しています。「筋力がついた」「前より動くことができる」などリハビリテーションの最大の効果を引き出すには栄養管理との連携がとても重要になっています。

主任 管理栄養士 木島さん(以下木島):高齢者はとくに食事の摂取量の不足や減少は低栄養状態を招き、体重や筋肉量の減少、筋力低下など、さらにはフレイル(心身の衰え)を進行させることが知られています。人の身体は、運動(リハビリ)だけをすればいいわけではなく、また同じく栄養だけをとっていればいいわけでもありません。そして、それらを行うタイミングなども人によってそれぞれ影響を与えるものなのです。

平子: わかりやすく言えば、若い方がトレーニングジムで筋肉を増やすことに食事が非常に影響していることと同じです。良好な身体を維持するためには、運動だけでなく栄養にも気を配る必要があります。高齢者の方が元気になるためのリハビリについて、まだこの考え方が一般的に浸透していないと感じますが、基本的には人間の身体なので仕組みは同じです。

― ご利用者さんが入所される前から、多職種連携をとる体制を整えているのでしょうか?

木島さん:ご利用者さんが入所される前に、医師、リハビリスタッフ、介護スタッフなど関係する職種を集め、提供するサービス内容を決定する会議が行われます。リハビリや生活機能においては、「○○機能の改善に努めます。そのためには〇〇を行います」といった形で目標を設定し、栄養・食事に関わる私も、ご利用者さんの疾患や嚥下機能などの情報に基づき、医師からの助言や指示、他職種の意見を参考にして、最適な栄養ケア計画を立案し実施していきます。なので、入所前に多職種との連携は欠かせないものです。

ご入所後にはなるべく早いタイミングで、私と言語聴覚士を含む多職種が、ご利用者さんの食事の状況を確認し、各専門的立場から評価するミールラウンドというものを行います。ご利用者さんの起床状況や座った時の姿勢、食事の量や行動、飲み込みの状態など。また、むせなどの問題がないかなども確認します。これらの評価を行い、意見交換を行い支援内容を共有します。

一度決めた計画も随時連携をとって、必要であれば柔軟に変更を行います。例えば、食事を摂っているにも関わらずご利用者さんが痩せている場合、栄養の観点からは、食事の量が不足しているのか、エネルギー摂取が足りていないのか、それともリハビリによる負荷が過大で消費エネルギーが増加しているのかなど、なぜそのような状況になっているのかを評価し、ご利用者さんの状態を共に検討し、必要に応じて変更を行っています。

平子:病院などでは、患者さんの採血データを参考にしてリハビリプランや栄養内容を検討することが一般的です。しかし、大和田の里では、入所者が採決で痛い思いをされないように、状態が安定している方には頻繁な血液検査は行いません。したがって、木島さんがまとめてくださるデータや見識が重要な役割を果たしています。体重変動やBMI、食事摂取量、食事状況などの情報を総合的に判断していただけるため、リハビリの負荷をかけるタイミングを誤ることがありません。そのため、食事量が不足している人には筋トレを行わせるなどのミスマッチが少なくなり、食事を摂りエネルギーを確保したうえで、活動量の調整を行うことができます。これにより、リハビリ全体の質が向上し、利用者さんに余計な負担をかけずに適切なリハビリを提供できるようになります。現在、リハビリ部門では、木島さんのデータを効率的かつ簡便にスタッフ間で共有するためのシステム化を検討しています。

入所時は寝たきり、
リハビリと栄養の早期介入歩行器を使って歩くまで改善した事例

― 具体的に効果を実感できた事例はありますか?

お二人:Mさんですね。

木島:Mさんは80歳後半の方で、西奈良中央病院を退院後、リハビリ目的で入所されました。低栄養状態で、リクライニング車椅子を使用していました。骨折が2か所あり、手術を経てリハビリを行っていましたが、以前よりも動けなくなっていました。そこで、当施設に入所し、リハビリを進めることになった方です。Mさんは元々、見守りから少しの介助で歩くことができていましたので、リハビリと栄養の連携による早期介入を行いました。

― Mさんの事例において、ポイントはどこにあったのでしょうか?

木島:僕は、初動がよかったと思います。入所後の3〜5日間は、状況を見極めながら情報を収集し、課題と思われる原因を検討しました。食事や栄養にアプローチする方が良いのか、リハビリを組み合わせて関わる方が良いのかをみんなで検討しました。

Mさんの場合、入所時の食事環境は入院時と同じくベッド上での食事でしたが、Mさんにとっては食事としての認識が難しいのではと評価しました。そのため、言語聴覚士や理学療法士と協力し、Mさんが食堂に出て食事をするための環境整備を行いました。それにより、Mさんの食事摂取量が徐々に増え、提供量も段階的に増やすことができました。入所時の体重が32kg台だったMさんは、現在は36kg台まで増加し、栄養状態のリスク分類も高リスク(悪い)から中リスク(要注意)に改善されました。

平子:Mさんは入院中に血圧調整の能力が弱まり、起きた瞬間に血圧が急降下する症状がありました。そのため、最初は起き上がって食事をすることができませんでした。しかし、座って食事することで食事摂取量が増えることもあるため、まずは座ることができるようリハビリで自律神経の機能を向上させることを重視しました。そこから座るためのリハビリを行い、徐々に座ってしっかりと食事ができるようになっていきました。食事摂取量が増えるにつれて、徐々にリハビリの負荷を上げていくことができ、機能改善に向けたステップを順に踏むことができました。入所時は寝たきりの状態でしたが、2カ月弱後には、歩行器を使って歩くことができるまで改善されました。利用者さんに良いサービスを提供できたモデルケースだと思います。

木島:リハビリチームと栄養チームは「食べられるようになったらリハビリを進めて改善できる!」という共通の認識がありましたね。同じ意識を持って行動できるというのが、成果につながったと思います。

地域高齢者の生活の質を改善
それぞれのプロフェッショナルが思い描く未来

― 介護と医療的な視点も持つお二人からリハビリと栄養管理の展望をお教えください。

―介護と医療的な視点も持つお二人からリハビリと栄養管理の展望をお教えください。

木島:利用者さんは高齢の方が多く、人生の時間も限りがあるわけですから、効率よく・効果を出すことは大事だと思います。まず、情報の収集を行い、医師やリハビリの専門家を含む多職種と情報を共有すること。それぞれの情報が点であれば、それらの点を結びつけるために、多職種の視点を総合的に調整する力が重要です。この方法次第で、私たちの仕事の効率にも、利用者さんのQOL(生活の質)にも直結すると考えますので、この点に意識を向ける必要があります。 将来的には、私は施設と地域の連携をさらに推進していきたいと考えています。地域のリハビリの専門家と連携することで、利用者さんにとって効果的なリハビリをサポートすることができると思います。施設で行っている活動を地域に拡大させることは、非常に重要です。また、認定栄養ケアステーションやホーム栄養士といった言葉がありますが、私は地域の人々や地域に関わる専門職種との連携を通じて、もっと私を身近に感じていただき「栄養や食事に関して困った時は、大和田の里の木島さんに相談しよう」と思っていただけるプラットフォームのような存在になりたいと思っています。

平子:まずは施設内のリハビリ部門と栄養管理部門との効率的な情報共有システムの構築が第一にあります。 最終的には訪問系サービスとしても管理栄養士が利用者に手軽に介入できるようになってほしいと思っています。高齢者の中には栄養摂取への意識が薄い方が多いと感じています。実際、在宅生活でも低栄養状態の方が多く存在します。介護報酬改定により、令和3年度では栄養改善加算が可能となり、通所リハビリを利用している方々については、要件を満たせば管理栄養士が訪問可能となりました。これは非常に良いことですが、通所リハビリを利用していない方々に関しては、まだ管理栄養士の訪問と介入が難しい現状です。利用者にとっては、施設か自宅かに関わらず、受けられる介護サービスが変わらないことが本来の理想だと思います。これは管理栄養士だけでなく、在宅医療にかかわる医療介護従事者全員が思っていることだと思います。将来の10年後や20年後を考えると、在宅医療の必要性がさらに高まると思います。そのときにも、同じ思いを持つスタッフと共に利用者のことを最優先に考えながら、介護サービスを届けられたらと思います。